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EC・通販サイトで顧客に安心感を与えるのが「返金保証制度」です。この返金保証制度があれば、商品を購入する前の「自分に合わなかったらどうしよう」「効果が実感できなかったらどうしよう」という顧客の悩みを和らげることができます。
返金保証制度を導入すると顧客が安心して商品を購入できるため、結果的にECサイトの売上が上がる可能性があります。
本記事では、EC・通販事業者で返金保証制度を導入しようかどうか迷っている方に向けて、返金保証制度の内容やそのメリット、運用方法、法規制の内容などについて詳しく解説します。
返金保証制度とは?
(全額)返金保証制度とは
全額返金保証制度とは、顧客が商品やサービスにお金を支払った後その商品やサービスに満足いかなかった場合に、顧客が企業へ申請することで支払った料金が全額返金されるという制度です。
企業によっては全額ではなく一部の金額と決められている場合もあり、返金を申請できる期間も企業によって異なります。
返金保証制度を設けることで一定以上の効果が出ることが前提となるため、商品やサービスを提供しているすべての企業が返金保証制度を導入しているわけではありません。
返金保証制度を導入している企業・サービスの例
返金保証制度は、例えばニキビクリームや育毛剤といった商材を扱うサービスで導入されています。これらの商材は医薬部外品の化粧品であり、効果の即効性が人によって違いがあるのが特徴です。
ダイエット系のサプリメントや酵素ドリンクなどの健康食品などを扱っているEC・通販事業者も、全額返金保証を導入しているところが多いです。
EC・通販だけではなくサービスを取り扱っている企業では、美容や脱毛を専門としたエステサロン、ダイエット効果を売りにしたジムが(全額)返金保証をよく行っています。
英会話教室などの語学に関する学習プログラムを扱ったサービスも同様です。
以上のようなサービスも、すぐには効果が見えにくく、また効果に個人差があるといった特徴があります。
返金保証制度と相性の悪いサービス
飲食店や食品、旅行サービスを扱っている企業では、返金保証はあまり導入されていません。
その理由は、食品は味、旅行は体験が重視されるものであり、それらは数値化することが難しいからです。
飲食店や旅行会社が顧客に提供する「食べ物の美味しさ」や「旅行の楽しさ」は、人それぞれの受け取り方の問題になるために、商品の効果や即効性というものとは性質が異なるでしょう。
そのため返金保証という制度は、すべての商品やサービスに適しているわけではなく、相性の良いものとそうでないものに分かれるといえるでしょう。
返金保証制度のメリット①CVRの向上
返金保証制度の導入は、EC・通販サイトを運営している企業にとってメリットがあります。
メリットのひとつは、CVR(コンバージョン率)が上がることです。
CVRとは、Webサイトにアクセスした人のうち、どれだけの人がサイト内で提供している商品やサービスの購入・申し込みをしたかを表す割合です。
ECサイトであれば、「購入・申し込みをした顧客数」を「サイトに訪問した顧客数」で割ることによって算出できます。
なぜ、返金保証制度を導入することによりCVRが向上するのでしょうか。
その理由は、「返金保証制度を導入している企業は提供する商品・サービスに自信がある」というイメージを消費者に与えるからです。
返金保証という制度をアピールすると、それを見た消費者は「返金してもOKということなら、よっぽど商品に自信があるのだろう」という印象を持ちます。
商品やサービスを提供する企業が一般には知られていなくても、「効果が実感できなくても返金されるなら買ってみても良いかな」という気持ちを顧客に持たせることができるのです。
「商品やサービスを一度購入してみて、自分にしっくりこなかったら返金してもらえれば良い」という仕組みが、商品・サービス購入の敷居を低くさせ、結果的にコンバージョン率アップへとつながります。
返金保証制度のメリット②消費者の不満抑制
返金保証制度には消費者の不満を抑制させる効果があることも、メリットとして挙げられます。
企業が提供する商品やサービスは、いくら企業側が自信を持って販売しても、購入したすべての消費者を満足させるとは限りません。
顧客のなかには、自分の望んでいたものとは違うと不満を述べる方もいることでしょう。
自分でお金を払った商品・サービスに対し少しでも不満の気持ちが生じてしまった場合、その不満をSNSで発信する方もいます。
TwitterなどのSNSは、多くの方が利用している個人メディアであり、自分の思ったことを自由に発信できるツールです。SNSの特徴は、ひとつの情報があっという間に不特定多数の人たちに向けて広がってしまうという、拡散力です。
仮にある企業が、たったひとりの消費者への対応をおろそかにしてしまったという場合に、その消費者が不満に思ったことをSNS経由で発信することで、あっという間に企業の良くない情報が拡散され、結果、企業に大きなダメージを与えてしまうというケースもあります。
SNSの普及により、ひとりの消費者への対応ひとつで売り上げを大幅に下げてしまいかねないのです。
返金保証制度を導入していれば、仮に消費者が商品に不満を抱いても誠実に対応するという姿勢を示すことができます。
返金保証制度の運用ポイント
返金保証制度は、導入しさえすれば消費者の不満を抑えられるというわけではありません。消費者からくるクレームを想定して、リスク対策をあらかじめ準備することも大切です。
返金保証制度の運用ポイントは、返金保証の申請をする消費者に向けて、あらかじめ条件を定めておくことです。例えば「サービスの初回利用から〇日までに返金の申し出をすること」という申請可能期間の条件です。
申請できる期間は1年間や90日間など、企業によって異なる期間を設定しています。期間が長ければ長いほど消費者への信頼を得ることができます。
購入してから何年も経過してから返金を要求する方もいらっしゃいますが、期間を設けておくことによって理不尽な要求を抑制することが可能です。
顧客が返金保証の申請をする場合、返金を希望する理由は顧客ごとに異なります。
そのため対応フローをもとに事務的に対応するだけでは、消費者のクレームを抑制することができない場合もあります。そのため、消費者向けのフリーダイヤルでのサービスセンター、インターネットによるお客様問い合わせ窓口やチャットサービスを導入することも大切です。
事業者は、商品・サービスを利用した消費者の意見を真剣に受け止めて対応することも重要な業務となります。消費者の疑問や不満など消費者の意見をしっかりと聞き不満を解消させてあげる仕組みを整え商品・サービスの顧客満足度を高めれば、返金保証の申請者数は減少するでしょう。
返金保証制度に関する法律知識
返金保証制度は「景品表示法」という法律に沿って定めなくてはいけません。
この法律の「有利誤認」という決まりには、取引条件に関する事項が決められています。
企業のなかには全額返金保証と大々的にアピールしているところもありますが、有利誤認とならないように返金を申請してきた消費者に対応する条件を正確にわかりやすく提示する必要があります。
消費者からのクレーム対応を想定して、無理な条件を並べることはやってはいけないことです。
化粧品を取り扱っている企業は「薬機法」という法律にも注意しなければいけません。薬機法によれば、化粧品における効果の具体的な表示はできません。
そのため、返金保証の場合「効果がなければ返金に応じます」という表記は認められません。このようなケースでは「満足いただけなければ返金に応じる」といった表現にすることが重要です。
返金条件の示し方によっては、課徴金の支払命令を受ける可能性があるので注意しましょう。
参考:林田学『30万人のサブスク・定期顧客を生み出す リーガルマーケティング』ダイヤモンド社、2022年