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いま様々な業界で取り組まれているDX(デジタルトランスフォーメーション)。
DXとは、「データを中心にして事業を行うことによって、既存の事業や組織を変革し新たに価値を生み出すこと」を指します。
ここでは、実際にDXに取り組んだ7社の事例を紹介します。「結局DXって何なの?」「DXはどうやって各社進めているの?」と疑問に思っている方はぜひ参考にしてみてください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)についておさらい
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DXとは、「IT(情報技術)を使って既存のビジネスモデルに変化を起こし、売上を向上させる仕組みをつくること」です。
DXにおいてデジタル化(IT化)は、新たなサービスやビジネスモデルを構築するための手段だとされます。デジタル化は目的ではなくあくまで手段という位置づけです。
DXを進めるためのステップ
DXには、大きく3つの段階があると言われています。
①デジタイゼーション
デジタイゼーションとは、紙の文書ようなアナログのデータを電子化することです。
②デジタライゼーション
デジタル化したデータを必要な時に”活用できる”ようにすることはデジタライゼーションと呼ばれます。デジタライゼーションの段階までくると、業務の効率化が進んでいるはずです。
③DX
最後に、蓄積されたデータやデジタル技術を用いて新たな価値を創り出すことがDXとなります。
今回紹介する7社は、いずれも組織や社会の課題解決を目的としてデータを取得し活用しています。つまり、デジタル化(デジタイゼーション・デジタライゼーション)を目的にするのではなく、何らかの目的があってそれを達成するためにデジタル化を進めるのがDXです。
「DX推進」を掲げ実行するのに重要なのは、デジタル技術を活用することで新たな価値を生んでいるのかという視点なのです。
※DXについて詳しく知りたい方はこちら:DXとは?DXの意味とそのメリット、成功事例をご紹介!
製造業のDX国内事例
日本の製造業は、有能な現場の人材を核にした独自の設計・生産を行うことで高い生産性を発揮し、世界的に高い競争力を維持してきました。
しかし近年では、デジタル技術の活用によって諸外国の製造品質や生産性が急激に向上しており、日本の優位性がなくなってきていると言われます。そのため、日本でもデジタルを中心にして生産できるような体制への転換が進められています。
トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社は従来、開発・製造・販売の各段階ごとにデジタル活用を行っていました。
しかしアメリカのTesla(テスラ)のようにITに強みを持つ企業が自動車産業に参入してきたという背景もあり、よりデータを活用していくために、全社的に機能横断のデジタル化(データ・モノ一体)に取り組みました。
その取り組みの結果、車両の膨大な走行データ(いわゆるビックデータ)をもとに開発を行ったり、工場の生産ラインの情報をリアルタイムで収集して問題の発生を未然に検知するようにしたりといったことに繋がっています。
またトヨタのDXは自動車の開発・製造に限らず、顧客へのサービスの提供にも繋がっています。
トヨタの「KINTO(キント)」というサービスでは、サブスクリプション(月額課金制)で自動車を利用できます。顧客はトヨタから自動車というモノを購入するのではなく、トヨタのサービスを利用するということです。
KINTOは「車離れ」が進んでいる若年層を獲得できています。またリアルの販売店よりもWebからの申し込みが多いのも特徴です。
※参考:トヨタ車サブスク「KINTO」が放つ切り札「体験EC」の狙いとは、 経済産業省「製造業DXレポート~エンジニアリングのニュー・ノーマル~」
三菱電機株式会社
家電製品から産業機器、宇宙システム、社会インフラなど幅広い製品・ソリューションを提供する三菱電気株式会社は、企業の内外を問わずDXを推進しています。 2021年には経済産業省から「DX認定取得事業者」に認定されました。
三菱電機のDX取り組みの一つに、「e-f@ctory(イーファクトリー)」があります。
工場現場を自働化するための機器であるFA機器同士を連携させることで、工場内に埋もれているデータの価値を見出し、コスト削減や品質向上に繋げようという取り組みです。
菓子メーカーロッテの主力工場の1つである浦和工場では、三菱電機の製品を中心として「雪見だいふく」の生産ラインを見直しました。
見直しのポイントは2つでした。
①原料などのバラつきに対応する機械の調整を従来は属人的な対応で行ってきたが、それをデータ化することで「品質の安定化」(不良品の抑制)を図る
②機械異常などによるライン停止を回避して素早くトラブル対応を行う「稼働率向上」を行う
ロッテの浦和工場は将来的には、「完全に自律して動く工場」を目指しています。
※参考: ~株式会社ロッテ 浦和工場~「雪見だいふく」工場で進むスマート化、“完全自律運転” を目指すその第一歩、 経済産業省「製造業DXレポート~エンジニアリングのニュー・ノーマル~」
機械/建設業界のDX国内事例
機械・建設業界では、人手不足や技術の伝達が進んでいないなどの要因から、業界全体でDXの推進が推進されています。
清水建設株式会社
大手ゼネコンの清水建設は、「中期デジタル戦略 2020」において、リアルなものづくりの知恵と先端デジタル技術によって、リアルな空間とデジタルな空間・サービスを提供する建設会社を目指すと宣言しています。
清水建設は、建物運用のDXを支援する建物OS(オペレーティングシステム)である「DX-Core(ディーエックスコア)」を開発し、数十社にサービスを提供しています。DX-Coreは、建物内の空調、照明、自動ドア、監視カメラ、入退室カードリーダーといった設備機器を、メーカーを問わず連携させ運用・制御する仕組みです。
身近に感じられる活用例だと、社員がオフィスの席に着くと、予め設定しておいた自分好みの風量に空調が自動で調節されるという例が挙げられます。風量の変更はスマートフォンで行えます。
※参考:中期デジタル戦略にもとづきデジタル化コンセプトを策定、 清水建設が22社と協業しDX、「建物OS」で空調・照明・エレベーターを連携制御
株式会社 小松製作所
コマツグループでは主に、建設・鉱山機械、ユーティリティ(小型機械)、林業機械、産業機械などに関する事業を展開しています。
コマツは、建設現場のDXを推進するための「SMARTCONSTRUCTION(スマートコンストラクション)」というソリューションを提供しています。
スマートコンストラクションは、建設生産プロセスに関わるあらゆる「モノ」のデータをICT(情報通信技術)で繋ぎデータを活用することによって、危険の多い建設現場でより安全な施工の実現したり、経験の浅いオペレーターでも精度の高い施工を可能にしたりします。
また効率的に現場が進むことで、現場で必要となる作業員やオペレーターの人数、建設機械の稼働日数が減らすことができます。
例えば、ドローンで測量した建造物や樹木などを取り除いた地表面を表す3D地形データとICT建機やドローンからの施工進捗データを繋いで、デジタルツイン(デジタル空間上の双子:現実の世界から収集した様々なデータをコンピュータ上で再現したもの)を3Dで視覚的に示します。
このデジタルツイン上に完成地形設計データを重ね合わせることで、土砂の運搬するダンプトラックの走行経路を最適化することができます。
※参考:KOMATSU [SMARTCONSTRUCTION]、 コマツ「スマートコンストラクション」でDXを推進 1万4千件超の建設現場に導入 システムの流れとAWSを採用した理由を公開
株式会社クボタ
トラクタや田植え機のような農業機械や水・環境に関連する製品を提供するクボタも、IoT製品(IoT:様々なモノが通信ネットワークを通じて相互に情報交換する仕組み)や独自のITソリューションを提供することで、顧客に新たな価値を提供しています。
高齢化が進む日本では、就農者の平均年齢は約67歳になります。また年々農家の数も減少してきています。
圃場(農作物を栽培するための場所)の適切な管理、収量・品質の向上、コストと労働負荷の低減、生産品の高付加価値化など多様な課題を抱える農家の支援は急務となっています。
そのような背景がありクボタは、ICTやロボット技術を活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業の普及を目指しています。
例えば、農業機械の自動運転・無人化農機の実用化を目指して今も開発を続けています。既に2017年には、有人監視下(現場立ち合い、登場監視)での自動化・無人化での自動走行・自動作業が可能なトラクタを販売しています。
またクボタは、トラクタ・田植機・コンバインとICTを融合させた営農支援サービス「KSAS (クボタスマートアグリシステム:Kubota Smart Agri System)」も提供しています。
スマートフォン/PCなどの端末を使い、対応農機と連携したデータを収集・活用することで、作業の計画・記録・進捗管理、肥料を畑にまく量などを可視化します。また農業機械の位置や稼働状況から、機械の順調稼働をアドバイスする「診断レポート」を提供するサービスもあります。
※参考:クボタのスマート農業、 KSAS クボタ スマートアグリシステム
美容業界(化学)のDX国内事例
美容業界のEC化率は他業界に比べて低く、2019年の時点では約6%にすぎませんでした。ドラッグストア等で手軽に購入できる商品の人気や、高価な化粧品に関しては美容部員に相談してから購入したいというニーズがあったと考えられるからです。
しかし海外への化粧品販売の本格化や新型コロナウイルスに向けた対策として、各社ECでの販売にも力を入れ始めています。
※参考:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)、59頁
株式会社資生堂
資生堂は中期経営戦略「WIN 2023」において、データを活用し、スキンビューティー事業において世界No.1になることを目指しています。この目標を達成するために、すべての取り組みの中心にデジタルを据える必要があると資生堂は考えています。
化粧品のメーカーに対して、消費者はこれまで以上に利便性、スピード、パーソナライゼーション、情報・娯楽といった要素を求めているという背景があります。 またセルフケアや健康などが注目を集めているため、今後も「ビューティー」の領域は拡大していると言えるでしょう。
社内のDXに関しては、「FOCUS(フォーカス:First One Connected & Unified Shiseido)」というプロジェクトを2019年11月から推進しており、世界の各地域と資生堂のビジネス機能を1つのシステムでつなぎ、財務会計、生産、購買、マーケティングなどのデータの一元化を図っています。
詳細なデータをリアルタイムに、世界中どの場所からでも得られるようにすることで、市場環境や顧客の変化への対応スピードを高めることを意図しています。
また顧客に向けたDXの事例もあります。
化粧品は、実際に試してみないとその効果が分からないという特異な特徴があります。そこで資生堂は、メイクのシミュレーションを行えるバーチャルメイクができるサービスを提供し、オンラインでも購入しやすいような仕組みをつくりました。
※参考:統合レポート2020|資生堂グループ企業情報サイト、 バーチャルメイク|ワタシプラス/資生堂
株式会社コーセー
株式会社コーセーは、独自の高い付加価値を持つ高級化粧品の販売事業を行っています。
対面で化粧品を販売する場合、ビューティーコンサルタント(美容部員)が丁寧に顧客の悩みをヒヤリングをすることで、その顧客に合った商品を勧めています。しかしその方法だとコンサルタント一人ひとりが持つ知識や経験が共有化されないという課題もありました。また2020年からは新型コロナウイルスの流行により、対面での細やかな接客が難しくなりました。
そこで「STAFF START(スタッフ スマート)」というサービスを利用し、SNSとECを組み合わせて顧客に商品の魅力やメイクの知識を伝えるようにしました。自分の投稿によってどれぐらい商品が売れたか可視化されるので、コンサルタントのモチベーションアップにも繋がっています。
また「DECORTÉ Personal Beauty Concierge(コスメデコルテ パーソナルビューティ コンシェルジュ)」というサービスを2021年9月に開始しました。 顧客はカウンセリングを事前に予約することで、当日コンサルタントからスキンケアのアドバイスや商品の選び方、メイクのテクニックなどについて約30分間のカウンセリングを受けることができます。
カウンセリングの内容は「KOSE ID」と紐づいており、カウンセリング後に顧客は提案された商品を確認することができます。
KOSEは、たとえオンラインの接客であっても顧客のニーズに合わせた美容品の販売が可能な仕組みを作り上げたと言えるでしょう。
※参考:コーセーが接客DX カウンセリングから購買まで連携、及び酒井真弓『ルポ 日本のDX最前線』集英社新書、2021年、191-201頁