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「食品ECを始めたいが課題があり最初の一歩を踏み出せない」「食品ECを運営しているがなかなか売上が伸びない」など、食品分野にてEC・通販を立ち上げや運営に関してお悩みの方もいらっしゃることでしょう。
食品EC・通販事業の実現には多くの課題がありますが、実際にEC化を成功させている企業も存在します。食品は鮮度や実店舗の高い利便性もあってEC・通販との相性が良くないとされていますが、食品ECに勝機を見出している事業者も見られるのです。
本記事では、食品EC・通販の現状と売上を伸ばすポイントを紹介していきます。
物販系の中でも低い食品分野のEC化率
BtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場が年々増加傾向にありますが、EC化率は分野によって差があります。
BtoC-EC市場の分野は、大きく3つに分けられます。
・物販系
「食品:飲料、酒類」、「生活家電:AV機器、PC・周辺機器等」、「書籍、映像・音楽ソフト」、「化粧品、医薬品、生活雑貨、家具、インテリア」、「衣類・服装雑貨等」、「自動車、自動二輪車、パーツ等」、「事務用品、文房具、その他」
・サービス系
「旅行サービス」、「飲食サービス」、「チケット販売」、「金融サービス」、「理美容サービス」、「その他 (医療、保険、住居関連、教育等)」
・デジタル系分野
「電子出版(電子書籍・電子雑誌)」、「有料音楽配信」、「有料動画配信」、「オンラインゲーム」、「その他」
BtoC-EC全体の市場規模は2018年は18.0兆円に対し、2019年では19.4兆円と前年比7.65%ポイント増となっています。
またBtoC-EC化率は、2018年の6.22%に対し、2019年では6.76%と前年比0.54ポイント増とEC化率においても増加傾向にあります。
物販系の中でも、「食品分野」の市場規模は2019年は1.8兆円、EC化率は2.89%です。「化粧品、医薬品」が市場規模6,611億円、EC化率6%、「衣類・服装雑貨等」が1.9兆円、EC化率13.87%であることから、食品分野のEC化率は物販系分野で最も低いです。
その要因としては、「飲食物は直接口にするもののため、新鮮さや色を直接確認したい」という顧客の動機が挙げられるでしょう。その他の物販にはない飲食物ならではの特徴です。
またスーパーマーケットやコンビニといった実店舗が充実しており、わざわざオンラインで購入する必要性がないということも要因として考えられます。
そもそも日本のEC化率自体が他の先進国に比べると低いのですが、特に食品EC化率の伸びが良くないのには個別の理由があると推察できます。少なくともその理由を知ることから市場の「伸び悩み」を解消するヒントが見えてくるはずです。
現状ではEC市場での存在感が小さい食品分野ですが、企業の食品EC・通販事業の売上が伸びれば国内のEC化率全体の底上げになる、そんな期待や希望が持てる分野と言えます。
参考:経済産業省「令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)」
食品EC化が伸びていない理由とは?
ここでは食品業界のEC化率の伸びが良くない理由についてさらに詳しく見ていきましょう。
商品の鮮度や状態を直接確かめたいという顧客のニーズがある
食品のEC化が進まない理由として、顧客の「実際に商品を手に取り、鮮度や産地を確かめてから購入したい」というニーズが挙げられます。
肉や魚、野菜などの生鮮食品は、鮮度や形、色など見た目の状態を確認した上で購入する傾向にあります。加工食品であれば、アレルギーや加工元の原産地を気にする方も少なくありません。
「安く買って得をしたい」と思う以上に、「そもそも安心して食べることのできる商品かどうか」が顧客の一般的な心理でしょう。
そのため、食品EC・通販では商品を手にとって選べない点が大きなネックになっています。対して家電製品なら「仕様が同じであればどこで買っても品質は変わらない」と捉えられているためか、EC化率は30%を超える高水準です。
食品EC・通販を成功させるためは、品質に関して安心・信頼いただけるような情報を顧客に伝えていく必要があります。
利便性に優れた実店舗が充実している
食品業界のEC化率の伸びが良くない理由の1つとして、通販よりも実店舗の方が利便性が高い場合があることも挙げられます。
人口密度の高い地域、とりわけ都心部においてはコンビニエンスストアや24時間営業のスーパーなどの利用頻度が高く、すぐに生鮮食品を手に入れることができるため通販で購入する習慣が根付いていません。
EC・通販で商品を購入すると注文から配送まで相応の時間がかかる一方で、目的の商品の取り扱いがあればすぐに購入することができるのが実店舗のメリットです。
特に生鮮食品の場合は賞味期限が短く、配送に時間がかかるようであれば鮮度を保てません。
「実店舗で容易に購入できる商品」であれば実店舗の利用のほうがユーザーにとって便利であるため、EC・通販サイト経由で購入するメリットがありません。そのため、食品事業者は「配送時間を短縮」や「EC・通販サイトでしか購入できないような商品・ブランドの希少性」に視点を向けるべきです。
受注から出荷までの業務を自動化・効率化できるシステムの導入や、自社のEC・通販でしか購入できない商品の開発など、実店舗との差を縮める手立てが必要です。
食品EC・通販における各社の取り組み
ここからは実際に食品ECを運営している企業がどのようにして食品EC・通販を成功させているのかを紹介します。
安心・安全・新鮮を届けるオイシックス・ラ・大地株式会社
オイシックス・ラ・大地株式会社は、有機野菜、特別栽培農産物、無添加加工食品等、安全性に配慮した食品・食材を提供しています。
注文が入ってから収穫するため、お米は精米したて、牛乳は搾りたてと新鮮な食品を届けるのが特徴です。
食材の定期通販も行っており、「Kit Oisix」ではレシピと食材をセットで届けてくれます。わざわざ献立を考える必要がなくなるので、大幅に料理にかえる時間を短縮してくれます。
頒布会を活用したグルマンマルセ株式会社
グルマンマルセ株式会社が運営する「GURUMAN VITAL(グルマンヴィタル)」は、学校給食やスーパーへの卸を母体としていますが、通販で一般消費者へパンを届けています。
こちらの食品ECではパンのみではなくスイーツも販売していますが、頒布会をうまく利用しているのが特徴です。
頒布会とは?定期コースとの違いやメリットを解説で紹介しているとおり、頒布会とは、「毎回異なる商品を届ける」販売手法を指します。
パン作りのプロが通販限定のパンを提供しており、ここでしか買えないという限定感があります。また、おいしく食べるための冊子を同梱物としています。例えば、パンを冷凍保存し、後でおいしく食べる方法を紹介しています。
参考:グルマンマルセ株式会社
※頒布会について詳しく知りたい方はこちら:頒布会とは?定期コースとの違いやメリットを解説
食品EC・通販の売上を上げるための5つのポイント
最後に、食品EC・通販の売上を上げるためのポイントについて5つ紹介いたします。
①積極的な商品情報の開示
食に対する意識が多様化しつつある中で、「どのような生産者がつくっているのか」「産地はどこなのか」「商品の特徴はなにか」など、求められるニーズが多様化しているため、「商品情報の明記」が重要になります。
顧客の期待に応えるように商品情報を提供することが、食品EC・通販事業者がとるべき行動でしょう。
生産者や商品の情報を積極的に開示することは、商品自体の信頼性を高め、売上にも結びつきやすくなります。
②物流拠点の確保
生鮮食品の取り扱いにはその食品に適した適温管理が欠かせません。より多方面の消費者に配送するためには、鮮度を保ったまま保管できる物流拠点をしっかり備えることが大切です。
配送エリアを限定せず全国に配送するのであれば、なおさら食品に特化した独自の物流拠点が必要になってくるでしょう。
また、物流拠点を拡大することで配送までの時間が短縮し鮮度を保ったまま届けることが可能です。
しっかり管理された状態で届けられる食品は消費者に安心を与え、それが評価となって売上につながっていくはずです。
物流拠点を備える事業予算が潤沢でない場合、食品の出荷代行サービスや冷蔵・冷凍倉庫のレンタルを検討しましょう。
③商品のブランド化
食品ECの売上を伸ばすポイントとして、商品のブランド化が挙げられます。
無数にあるECサイトの中で勝ち抜くためには、顧客の「そのサイトで買う理由」をつくることが必要になります。顧客が自社のサイトに訪れようという動機を形成する活動が、「ブランディング」です。
例えば、「いつも通る駅前の商店街の、あの店のあのコロッケでないとダメ」といった顧客の思い入れもブランディングの結果と言えます。
EC・通販でしか購入できない限定商品を扱ったり、商品にまつわるストーリーや他にはない魅力を伝えたりすることで、競合サイトや実店舗に対しての差別化を図りましょう。
④頒布会を取り入れる
頒布会とは、定期的に異なった商品を届ける通販手法のことです。
定期通販は毎回決まった商品を顧客に届けますが、果物であれば季節の旬な果物、パンであれば春はさくら味、秋は栗の味といった季節感のある商品を届け、顧客に楽しんでいただけるのが頒布会の魅力の1つです。
顧客を飽きさせないためにも、頒布会を取り入れてみてはいかがでしょうか。
⑤同梱物を工夫する
ぜひ、商品の特徴に沿った同梱物を設定しましょう。
例えば届ける商品以外に挨拶状や購入のお礼メッセージカード入れることで、顧客に感謝の気持ちを伝えることで商品・企業のホスピタリティを感じてもらえるでしょう。
商品・サービスに適した同梱物を取り入れることで、今後の継続して利用してもらう理由にもなります。同梱物は売上を伸ばす重要なポイントといえるでしょう。
※食品のD2C・通販の事例についてさらに詳しく知りたい方はこちら:人気食品D2Cブランド7選!食品D2C成功のポイントとは?